「悠真、じゃあなー」

「あぁ、またな」

 西田は周囲の雑音を聞き流し、席を立った。廊下の人並みに紛れて歩く。人の視線を避けるように、自分の目線は常に足元にある。歩いていると、後ろからどんと何かが背中に当たった。
 驚いて視線を上げると、村上が舌打ちをした。

「邪魔なんだよカス」

「……ごめん」

 西田が誤った頃には、村上たちはもう先へ行っていた。

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晃 @chie24_×××

後ろからぶつかってきといて邪魔って言われたんだけど。何様なんだよ。ムカつく

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 西田はカバンの持ち手を握り、再び歩き出した。普通に歩いていても追い越される速さで歩く。周囲はまるで西田を見ていない。まるで空気になったようだ。誰も自分に興味がない。それならいっそ、完全に消えてなくなればいいのに。
 肩を叩かれて、西田は再び顔を上げた。咲乃が、柔らかく微笑んでいた。

「また明日」

 目を細めて西田に告げると、軽やかな足取りで追い越していく。西田は反応が遅れて何も言えずに、その後姿を見送った。




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晃 @chie24_×××

あいつら教室で騒いでてうるせぇ

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晃 @chie24_×××

加奈ちゃんめちゃくちゃ可愛いいいい。髪型変えたの超似合ってる♡♡♡♡♡

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晃 @chie24_×××

クラスメイト全員嫌い

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晃 @chie24_×××

顔が良いと笑ってるだけで好かれて得ですね

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晃 @chie24_×××

何か楽しいことねーかな

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晃 @chie24_×××

授業ダル

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晃 @chie24_×××

チエちゃんのグッズ絶対買う

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晃 @chie24_×××

井の中の勘違い野郎が、声がデカいだけで「オレwww世界のwww中心wwwwww」ってツラしてんの恥ずかしくないのかな

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晃 @chie24_×××

ぱにぱに2期始まったぁ!

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晃 @chie24_×××

クソしね

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晃 @chie24_×××

自分の存在自体が社会の害悪なのそろそろ気づけよカス

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 ベッドに寝っ転がって、SNSに投稿された呟きをスライドしていく。心の底に溜まった鬱憤を吐き出せるのは鍵垢のSNSだけだ。家や学校では口数の少ない西田でも、インターネット上だけは饒舌になった。


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晃 @chie24_×××

あいつらマジ全員消えろ

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 SNSに書き込んだ言葉が、タイムラインに乗る。西田はスマートフォンの画面を切った。気怠い気持ちで天井を見上げる。すぐに今日の宿題をやらなければならないのに、ずっ重いものが頭の中に居座っていてやる気がでなかった。そのまま目を閉じると、すぐに気怠い朝が来た。




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晃 @chie24_×××

あーあ。朝から数学とか激萎え・・・

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 西田が自分の席でスマホをいじっていると、突然スマホを奪われた。

「えっ、ちょっ……!」

 驚いて後ろを振り向く。スマホを奪ったのは村上だった。他の仲間たちと面白がって、西田のスマホの画面をスクロールする。

「『期待してたアニメクソすぎ。原作ぶちこわしてんじゃねぇよ。監督変えろ』? 何こいつイキってんだよ、きめぇな」

 村上が、昨晩投稿した文面を朗読した。

「か、返せよ!」

 スマホへ手を伸ばす。西田の肩を、村上の仲間が掴んで阻んだ。
 村上たちはゲラゲラ笑いながら西田の投稿を読み上げる。

「『あいつらマジ全員消えろ』……これ、誰のことだ?」

 村上が西田の眼前に、スマホの画面を向ける。

「……こ、これは」

 全身から血の気が引いた。顔中に冷や汗が流れる。身体は異様に熱くなっていた。

 まずい――。

 西田が必死に抵抗して、スマホの方へ手を伸ばす。しかし、振り回された手は宙を掻くばかりで、一向にスマホまで届かない。

「『自分の存在自体が社会の害悪なのそろそろ気づけよカス』『村上のゴミが、マジで消えろ。苦しみながら絶望にまみれて死ね』」

「あっ……あぁ……」

 西田の口から絶望の声が漏れた。言い逃れはできない。そこにははっきりと、“村上”と書いてあるのだから。

 次の瞬間、西田の腹に衝撃が来た。一瞬視界が真っ白になり、息がつまる。後発の痛みがじわじわと腹部に広がる。腹を殴られたのだ。