「成海ちゃん、稚奈ちゃん。咲乃の友達が来てくれたよ」

 みんなをリビングに通したおじさんが、わたしたちに向かって呼びかけた。わたしは心の中で悲鳴を上げた。おじさん!! わたしのこと、皆の前で言っちゃだめだよ!

「えっ、何で本田さんがいるの!?」

 来客の女の子が、驚いて声を上げる。

「あ、本田……もいたのか」

 もうひとり来客の男の子が、心なしか嫌そうな声色で言った。

「うんっ、なるちゃんと篠原くんのお見舞いに来たんだぁ。山口さんと重田くんも来たんだね!」

 ちなちゃん!? わたしのことは黙っててって、たった今お願いしたばかりなのに!!

「あれ? 成海ちゃんはどこへ行ったのかな? 成海ちゃん?」

 おじさんが、わたしを探している。わたしは冷や汗をかきながら、その場にうずくまった。

「なるちゃんなら、そこから出て行きましたよ?」

「へ? どうしてそんなところに」

 ちなちゃんが、あっさりわたしの居場所をおじさんにバラしてしまう。おじさんの困惑したような声を聞いて、わたしは諦めて、皆の前に姿を現した。

「す、すみません。ちょっと外の空気を吸っていました……」

 自分でもわかるほどの苦しい言い訳を言いながら、そろそろと掃き出し窓からリビングへ上がる。皆のぽかんとした視線が、わたしの全身に突き刺さった。




 おじさんが、みんなの分の飲み物を用意している間、わたしたちはテーブルについて、お互い探るように顔を見合わせた。わたしは丸い身体(からだ)を縮めて、みんなの視線から逃れるようにうつむく。……なんだろう。さっきから、ずっと誰かの視線がわたしに集中している気がする。もう、ガン見レベルだ。普通、人の事そんなにじろじろ見るかな!? 怖いよ、やめてよ!!

 めちゃくちゃガン見してくる視線は一人だけのもので、山口さんと重田くんは、ちなちゃんが気になるようだった。

 山口さんは、驚くほど可愛くて背が高くて、篠原くんの友達なのも納得がいくレベルの容姿をした美少女だった。でも、ちょっと気が強そう。学校でも地位の高いポジションにいる女の子って感じで、絶対に関わりたくないタイプの子だ。
 もうひとりの重田くんは、運動部らしく日焼けした顔は爽やかで、細い身体(からだ)に健康的な筋肉がついた、なかなかのイケメンだ。だけど、なぜか気まずそうにしている。重田くんって確か、ちなちゃんの友達が告白したいって言っていた相手じゃなかったっけ?

「みんな、本当に来てくれてありがとう。咲乃はあまりお友達を家に招かないから、こんなに来てくれて嬉しいな。だけど、うちは普段甘いものを食べないから、他に出せるようなおやつがなくて……。京都土産で飽きてるかもしれないね」

 こんなピリピリしてる状況でも、おじさんはのほほんとした物言いで、それぞれのコップに麦茶を注いだ。わたしとちなちゃんの飲みかけのコップにも、注ぎ足してくれる。

「そんなことないですよ! 押し掛けたのはこっちですし」

「そうそう! 八つ橋美味いです、おじさん!」

 重田くんが遠慮ぎみに礼儀正しく答えると、既に八つ橋を口に入れていた男の子が、調子よく答えた。

「そう、よかった。僕は2階で仕事をしているよ。咲乃が起きたら知らせるから。それまで、ゆっくりしていってね」

 おじさんはそう言って、2階に上がって行ってしまった。残された5人は、互いに微妙な面持ちで座っている。
 ……居づらい。話したこともない同級生と同じ空間って、コミュ障には無理だ……。さっきからわたしのことじろじろ見てくる男の子もいるし……。そりゃあ、篠原くんのお見舞いにわたしみたいなデブスが居たら、関係性疑うけどさぁ、普通そんな見る? 失礼じゃないの、この人……。

 重田くんも山口さんも、やたらちなちゃんのことを警戒している。わたしのことは眼中にないみたいだけど。

「それにしても、篠原が元気になってよかったな。修学旅行で働き過ぎたって聞いたけど、まさか倒れるとは思ってなかったよ」

 気を使った重田くんがもうひとりの男の子に話を振った。隣の男の子のメンタルは鋼だ。こんなに重い空気にも関わらず、ひとりだけしっかり八つ橋を両手に持って食べている。

「あいつ、自分の限界わかんなくて無理しちゃうとこあるからなぁ。つうか、本田が来てるなんて意外じゃん。篠原と仲良かったのかよ」

 男の子がちなちゃんに話しかける。ちなちゃんはにこりと笑った。