派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

「差別意識ね……私は、そういうものは持っていないわ。身分の違いはあるけど、それは役割の違いだと認識しているもの」
「そうなのですね……」
「まあ、そういう意識を持つ貴族がいるのは、残念ながら確かなことなのよね……平民であろうと貴族であろうと、同じ人間であるというのに、どうして見下したり差別したりできるのか、私には理解できないわね」

 とりあえず、私はメルティナに自身の考えを話しておいた。多少大袈裟に言っているが、それは私の素直な気持ちだ。
 私からしてみれば、貴族と平民との差などよくわからない。それは、私がかつて別の世界で暮らしていた時に、そういうことが身近ではなかったことが、関係しているだろう。
 その記憶があるからこそ、私はこの世界の価値観と少しずれている。だから、この世界の価値観があまり理解できないのだろう。

「……あなたは、素晴らしい方なのですね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、私はそこまで褒められるような人間ではないのよ?」
「いえ、そんなことはありません。私は今確信しました。あなたが、素晴らしい人間であると……」

 メルティナは、私のことを称賛してくれた。彼女にとっては、平民を見下さない私は、平民である彼女にとっては、そう思えるような人間なのだろう。
 だが、私の価値観はいわばずるである。他の世界の記憶を持っているという特別な理由のある私が、この世界で暮らしている人々よりも優れていると手放しに賞賛できるかといったら、それはとても微妙なことであるはずだ。