「リオーブ様、もしかしてシャザームのことを気にしているんですか?」
「なんだ、ばれたか」

 リオーブは、自嘲気味な笑みを浮かべていた。どうやら、私の予想は当たっていたようである。

「……あの暗黒の魔女が、まだこの世界に生きていると聞いて、俺は正直はらわたが煮えくり返ったんだ。あいつだけは許せない。心からそう思ったんだ。そんなあいつを騎士団に任せる。そのことに、俺はどうすればいいかわからなくなっているんだ」
「リオーブ様……」

 リオーブは、暗黒の魔女に婚約者を操られ、姉の魂を取られた。大切な人達の人生を滅茶苦茶にされたのである。
 だからこそ、暗黒の魔女を許せなかった。できることなら、自らの手で彼女を滅ぼしたかったのだろう。
 だが、騎士団がことにあたるということは、彼が手を出すことはできなくなったということだ。それが、リオーブは悔しいのだろう。

「もちろん、わかっていはいるんだ。これが正しいことだということは……反対するつもりない。騎士団に任せられるなら、それが一番だと思う」
「でも、割り切れないんですね……」
「ああ、そういうことになるな……」

 恐らく、リオーブは心の中で整理がついていないのだろう。
 自分の怒りとこの国の摂理などといった事柄が、今彼の中では混ざり合っているのだ。
 それは、簡単に割り切れることではない。その悩みは必然で、仕方がないことだろう。