〜湊月side〜
「ねぇ聞いた?今日うちのクラスに転校生くるの。」
「聞いた聞いた!めっちゃ可愛いらしいよ〜。」

朝からこの話題で持ちきり。
昨日の放課後、どこかの生徒が転校生らしき人と先生が話しているのを聞いたらしく、それによるとこの学校に転校してくるというのだった。そしてそのクラスが私たちのクラスらしい。

転校生かぁ。

隣で机に伏せている瑠木の頭を見つめながら、少し考える。
可愛い子なのか。
瑠木はそういう子が好きになる、とかないよね、。
私のこの気持ちは、珠莉曰く、恋愛感情らしい。

「珠莉、相談あるんだけどさ、」
「なになに〜?」
「とある人が別の女の子と話してたら嫌だなって感じたり、まだもうちょっと一緒にいたいって思うのって何だと思う?」
「はぁ、湊月。それは恋だね。」

あれ以来、珠莉と恋バナみたいなのはしてないけど、やっぱりああ言われたら、瑠木のことを意識してしまう。

「みんな席についてー。」
教室に伊藤先生が入ってきた。その後ろにも1人、生徒が入ってくる。
クラスがざわつき始めてきて、隣の瑠木の顔がゆっくり上がったのが見えた。
先生が黒板に名前を書き始める。
にしても、あの顔見たことある気が。
少し目尻がつっていて、小さい顔。栗色のツヤのある髪にあの笑顔、、。
まさかっ、

「このクラスに転校生が来ました。自己紹介お願いね。」
「はい。はじめまして花巻美杜(ハナマキ ミト)です。今日からよろしくお願いします。」

、、やっぱりだ。
急に心臓がバクバクしてきた。
何でここにいるの?

あの時、転校したはずなのにっ、、。


私が中学1年生の時。
入学して間もない頃、友だちがいなくてずっと席に座ってた私に「おはよう!」と声をかけてくれたのは美杜だった。地区の関係で、小学校時代仲の良かった友達とは違う中学校に行くようになった私は、その時とても嬉しかったんだ。
それから私と美杜は常に一緒に行動するようになった。移動教室やグループワーク、放課後や休日も。
ある日、私と美杜が愛読している雑誌が同じことが分かったんだ。ちょうど新規モデルのオーディションの受付中で、私たちはそれに応募した。
「私たち2人でモデルになろうね!」
その希望を胸に抱えて。

書類審査通過。
私と美杜は最初の壁を突破することができた。
「私たちモデルになれるかもよ!?」
私はここで落ちるわけには行かないと思って、家の鏡の前でポージングの練習を毎日欠かさずしたんだ。
そのかいがあったのか、私は見事モデルになることができた。
だけど美杜は合格することができなかった。

「大丈夫!きっと私合格するからさぁ!」
「でも第2審査は、すごく厳しい人が合否を出すらしいよ。だから美杜も練習しといた方がいいよ。」
「もうー湊月ったら心配なのね!優しいなあ。」
「だから、そういうことじゃなくてっ、」
「ほんとに行けるって!」

内心、美杜に対する結果は分かってた。
あれだけ練習することを勧めても、何一つしようとしない。
美杜と一緒にモデルになりたくて、美杜のためにもそう言ってたのに。
美杜は落ちるだろう。
そう思ってしまっていた。
けれど、美杜が第1審査前に言っていた言葉を思い出した。
「どちらかが落ちても妬まない!これ約束ね!」
美杜自身が言ってたから、あの言葉を信じた。
でもそんな私が馬鹿だった。

「何で湊月なんかが合格してんだよ!ふざけんな!」
ある日放課後の教室で私は美杜に身体を押された。
「痛っ、。」
バランスが取れなくて、変に手を床についてしまった。手首がヒリヒリ痛んだ。
「私を落とそうと罠でも仕掛けたんでしょ?そうなんでしょ!」
「そ、そんなこと私してない、。」
「黙れよ!湊月なんか大っ嫌い。」
そういった美杜は荷物を持って教室を出た。

それが最後だ。
美杜に会ったのは。
あのあと、親の転勤で美杜は転校していった。

また戻ってきたの、、?

先生に言われた席に座る前に、美杜はこっちを見た。そして、軽く口角をあげた。
背筋がゾクッとした。

ここまで来て一体、何をしにきたの?



昼休みに入ったあと、美杜の周りには他クラスの子が集まっていた。
「花巻さん、人気者だねー。」
「美人さんだし、あれはモテるわ〜。」
「あまりいない系統の顔だよね〜。」
お昼ご飯を食べながら珠莉たちの話に、私は素直に頷けなかった。

中学の時、あんなことがあったなんてみんなには言えない。言ってしまえば何が起こるか分からない。
周りの子達に笑顔を振りまく美杜を見ていると、バッチリ目が合ってしまった。
うわ、やばいと思って慌てて目をそらす。
でも美杜がこっちに向かって来るのが視界の隅に見えた。
そして私の席の前まで来て、立ち止まった。
私はおそるおそる顔をあげる。
「みんなとRAIN交換したいんだけど、いいかな?」
ニコニコした表情で聞いてくる美杜に、由莉たちは「いいよー!」
と返事をしてスマホを出した。
3人と交換した後、
「湊月も交換しよ?」
と美杜が聞いてきた。
「え?花巻ちゃんって湊月と知り合いなの?」
由莉がびっくりした口調で聞いてきた。
おそらく美杜が私のことを呼び捨てで読んだからだ。
なんて言うのが正解なの、、?
仲は良かったけど、今はそうでもない、とか?
いやでもそれはそれで失礼か。
珠莉も捺未も興味津々の様子だ。
「、えっと、、」
「そうなの!私たち親友同士なの!」
美杜はそう言って肩に腕を回してきた。
突然のことに私は頭が混乱してきた。
「なーんだ、そうならそうって言ってよ湊月!」
「びっくりした〜。知り合いじゃなかったらどうしようかと思ったじゃん笑」
そう言って由莉と捺未が胸を撫で下ろした時、
「ねえ湊月。久しぶりの再会だし、今日ゆっくり話がしたいの。放課後、教室に残ってくれない?」
と笑顔を見せて言ってきた。
由莉たちに聞かれてる、、。
ここは断ることなんてできない。
「わ、分かった。残っとく。」
その言葉を聞くと、美杜は元いた席に戻っていった。
今日の美杜の表情と笑顔から何かある気がする。
美杜。あなたは一体何を企んでいるの?