〜瑠木side〜

隣には笑顔で楽しそうにしている湊月がいる。
あの日の翌日から湊月のいつもの明るさが戻っていた。
良かった 。
その気持ちが浮かんでくるばかり。

湊月は頑張り屋さんだ。
中1の時にモデルになって、仕事とか大変だったその数ヶ月後に、維月くんが亡くなっちゃって。
湊月が維月くんの死に責任を持っていたのは、何となく知っていた。毎年落ち込んでたから。
話を聞いてあげようかなといつも思ってたけど、それは余計なお世話だと思って言わなかった。
でもこの笑顔を見れば、早く聞いてあげれば良かったかな?
俺はそう思いながら古文の準備をした。


やっと授業が終わったー。よし、もう帰れる。
今週はテスト週間で部活動がない。
久しぶりに撮影のない湊月と一緒に帰ろうかな。
そう思ってリュックを背負った時に言われたんだ。

「瑠木、今日話したいことあるから一緒に帰ろ。」
ってな。


下校中、隣で「テスト自信あるー?」とかスイーツ屋の前で「おいしそ〜。」とか。
話したいことって別にないんじゃないか?そう思った。
「話したいことって何なんだよ、悠光。」
せっかくの今日に帰ろうと誘ってきたのは悠光だった。俺の言葉を聞いた悠光は足を止めて、こう言った。
「瑠木ってさ、一ノ瀬さんのこと好きだったりするか?」
ああ、やっぱり。
悠光がわざわざ話したいことがあるっていったら、単純な話で終わるわけがない。
「なんでそんなこと言わないといけないんだよ。お前に関係ないだろ。」
「関係あるよ。、、俺、一ノ瀬さんのこと好きなんだ。」
その言葉に俺は少し動揺した。
悠光は真剣に俺の目を見つめて続ける。
「瑠木が一ノ瀬さんの幼馴染で仲良いから、どうなのかなって、、。」
「俺は、、俺は湊月のこと、、。」
ダメだ、言えない。俺の本当の気持ち。
「俺は湊月のこと、好き、、、なわけないだろ。」
やっぱり言えなかった。
悠光は少し嬉しそうに「そっか。」と言った。
「じゃあ俺のこと、応援してくれるか?」
その言葉に俺は頷きたくなかった。
だけど、「、、うん。」と言ってしまった。



ああ、最悪だ。
悠光と、あの悠光とライバルだ、、
本当の気持ちを言えなかった。
応援するなんて、本心じゃないのに。
悠光と湊月が一緒にいるのを見たくないのに。
なんで俺は、あの時頷いたんだよ、、。

俺が自分の気持ちを言いづらくなったのは、小学5年生の時。
授業で自分の好きなことや趣味をみんなの前で発表する時間があった。
俺は小さい頃からお菓子作りが大好きだった。
自分が作ったお菓子やスイーツを誰かに美味しいって言ってもらえるのが嬉しくて、大きくなったらパティシエになりたいと思っていた。
俺が発表した後、クラスのみんなから馬鹿にされてるような目で見られた。
「お菓子作りって女子かよ‪w‪w‪」
「男子なのにお菓子作りって。」
俺の好きなことは気持ち悪かったんだ。
お菓子作りなんか好きになるんじゃなかった。
そう思って、それから何年か何も作らなかった。
自分の本当のことを言うと馬鹿にされるんだ。馬鹿になんかされたくない。
だったら、いっそ自分のことを閉ざせばいいんだ。

それがあるから、本心を言うのが怖い。
ほんの些細なことでも、あの時のことが蘇るんだ。 もう高1なのに、トラウマなんて情けないよな。
その時、ふと維月くんとの会話を思い出した。

「瑠木に湊月を幸せにさせる許しを与える。」
「えっ。」
「知ってるんだぞ、瑠木が湊月のこと好きなの。」
「な、なんで維月くんが知ってるの!?」
「見てたらわかるよ。バレバレだぞー。」

維月くんと一緒に隣町のゲームセンターに遊びに行った日、初めて恋バナをした。
維月くん曰く、もうだいぶ前から気づいてたらしい。湊月と話す俺の顔がほのかに赤いんだってさ。
今はマスク生活であんまり分からないと思うけど、確かに身体に熱がある感じはする。

「瑠木ったら可愛いんだから〜。」
「そういう維月くんこそ、好きな人いないの?」
「俺かぁ、俺はね〜」
そこから維月くんの恋バナが始まった。
維月くんの好きな人は俺らと同い年の子、つまり維月くんとは3歳年下だ。その子は芸能界には出てきていない、個別で演技を習っていて、何度かクラスが一緒だったらしい。
優しくて、真が通ったしっかりした所に惹かれたって言ってたなあ。その子の名前は、、忘れちゃったな。

湊月とこないだ維月くんのお墓参りに行った時、真剣に願った。

もし、今俺らを空から見てくれてるのなら、まだ応援してくれてるよね?湊月のこと、ずっと好きなの忘れてないよね?どんなに遅くなってもいい。俺は湊月の彼氏になりたいんだ。

届くはずないか。届いてても神様じゃあるまいし。
俺の気持ちが湊月に伝わることなんて、きっとないんだろうな。


好きなんか言えない。