〜瑠木side〜
やばい、今日からどうしようか。

席替えをして、俺の隣になったのは湊月。
ずっと隣になりたいと思ってたけど、いざなってみれば心臓に悪い。

あとだいたい3ヶ月この席か…
そう考えたら結構長いな。

高城たちと楽しそうに喋っている湊月の隣で、俺は次の古文の準備をしながら、そんなことしか考えてなかった。

すると後ろから、
「一ノ瀬さん。ちょっといいかな?」
と声がした。

この声は……悠光?

湊月が「なにー?」と言いながら、席を立って俺の後ろに来る。

会話内容を聞くと、数学の話のようだ。
悠光が分からない問題を湊月が教えてるみたい。

湊月になんか聞くなよ、別の女子に聞けよ…

とか思いながら、俺は古文の予習に集中しようとした。
けどそんなことできなかった。

聞いちゃったんだ、悠光が湊月にこう言っているのを。

「一ノ瀬さんって好きな人いるの?」


悠光はもしかして湊月のこと…
俺は今日ずっとそのことしか頭になかった。

今でもそう。
撮影を終えて帰ってくる湊月を駅前で待ちながら、考えちゃうんだ。

でもこの世の男の中で、1番湊月と近い距離にいるのは俺だ。

悠光なんかじゃない、から…

そう思っていると、行き交う人混みの中から湊月を見つけた。

湊月も俺を見つけたようで、こっちに手を振りながら走ってくる。
その姿がなんと言っても可愛い。

「遅くなってごめん!」
「全然待ってないから大丈夫。」

そう言うと、俺たちは歩き出した。

「はい、これ湊月に。」

左手に持っていたビニール袋からクリームパンを取り出して湊月に渡すと、

「わぁ。ありがとう!」

と嬉しそうにしてくれた。

湊月は小さい頃からクリームパンが好きなんだ。だから撮影終わりとかに買って行くことが多い。

いつもこうやって喜んでくれるから俺も嬉しいし、なんと言っても湊月が可愛い。

こんな関係だと湊月に告白したくてもできない。

幼馴染。

そんな関係を終わらせたくても、幼馴染だから。幼馴染こそ 1番、不利な位置なんだ。

家の前に着き、湊月と別れて家に入ると、妹の結以(ユイ)がこっちに走ってきた。

「お兄ちゃんラブラブ〜💕」

下から顔を覗き込んできて、からかってくる結以に、「ラブラブじゃねーよ。」と言う。

「えー、でもさっき見ちゃったよお??顔めっちゃ赤かったよお??」

はぁ、だるいな。

俺はついてくる結以なんか気にせずに、部屋に向かってドアをバタンっと閉めた。

「ちょっとお兄ちゃん!分かったからごめんって〜。」
いつもそう言ってるのに今日みたいにしてくるくせに。

「お兄ちゃんは分かってないかもしれないけど、結以はずっと応援してるんだからね!」

ドアの前からそう言った結以は、足音がするからきっと向こうに行ったのだろう。

、、応援してる、かぁ。

俺は未だに湊月のことが好きだって誰にも言ってない。友達にも、クラスメイトにも。

結以には昔からバレてた。湊月と話す時の俺が全然違うんだって。

、、ラブラブ〜なんていつか言われたいな。
そんなこと期待して意味ないってわかってる。湊月と俺なんか釣り合わない。叶うはずない恋だって、そんなの俺にも分かってる。

でもやっぱり、俺は湊月が好きなんだ。

幼馴染なんてやめたい。