「なぁ、理斗」

「んー?」

「おまえ、また告られたって本当かよ」

「……あー、まぁ」



加藤がそんな爆弾発言をかましてくる。しかも、遠慮のないボリュームで。


おい、やめろ。

柏木さんに聞かれるじゃないか。



「で、ふったんだろ~?」

「ふった、というか、丁重に友達になろうと言っただけ」

「うわー、ふり慣れてるやつは言うことが違うよなー、てか、友達100人できるかなの世界じゃん~」

「……それは盛りすぎ」

「だってさ、今月だけで何人目?」

「……4人、」

「へぇ、多分、6人目だけどねぇ~」



おい、加藤。そこは訂正するな。流せよ。

せっかく告白してくれて来た子を憶えてないなんて、俺がチャラ男みたいじゃないか。


ああ、こんな会話は柏木さんに聞いてほしくない。

俺の心象悪くしたくない……。


心配になって何気なさを装って少しだけ後ろを向くと、電柱の後ろに月光が漏れだすように柏木さんの不純なき気配が溢れている。


うわっ、その月光、尊っ……。



……、あれで隠れているつもりかな。

どこにいても柏木さんは目を惹くのに。

その存在をその他大勢に紛らわせることなんてできないのに。


でも、こそこそと電柱に小さい指をかけて、ぴょこっと顔の半分をのぞかせているのが、言うまでもなく……、


……って、あれ?



「(めっちゃ、きらきらしてる……?)」



控えめに覗いている左の瞳が、いつもより潤んで。

ほんわりと頬に赤みが差していて。

形のいい小ぶりな唇が緩んで。



それは氷の国のお姫様、ではなく。


春先に開いたチューリップのような可憐さ、柔くあたたかな微笑み。



「(うわー……、やばい、)」



輝きながら弧を描いている目元が蕩けて、俺に注がれている熱視線の破壊力たるや!!


わかりやすく、どくどくと心臓が早くなる。

ズキューンッ!と胸の真ん中を撃ち抜かれる感覚が、この世にほんとに存在するなんて、柏木さんにストーカーしてもらって初めて知った。



「(ああ、いますぐ近寄って抱きしめたい、そのまま家に連れて帰って、俺だけの……)」




うわっ!

いけない。だめだ。

これじゃどっちがストーカーかわからん!

しかも、俺の方がやばいやつ!


このクソ煩悩め!はやく滅却しろ!!


柏木さんが求めているのは、あくまで俺に秘密裏につきまとうことなのだ。



「(……がまんしろ、俺)」



柏木さんに、真心こめたストーカー活動時間を提供すると決めたんだ。


頭の中を占有する高校生男子特有の欲望を追い払いっているうちに、お目当てのコンビニについた。