純色ロマンティック

そのためには、俺の行動をわかりやすく柏木さんに知らせる必要がある。



「(ちゃんと聞こえたかな……。四つ角のセブンだよ?大丈夫かな……?)」



加藤に気づかれないように廊下の端の方を見やると、ふわり翻るスカートの欠片が見えた。


あれは間違いなく柏木さんのスカートの裾。

全女子が同じ制服だけど、俺にはわかる。


あの膝上3cmの絶妙なライン。

スカートのプリーツは乱れ知らず。

毎日クリーニング出しているのかってぐらい、きっちりと手入れされている。


それになにより、俺の本能が柏木さんで間違いないと告げている。



「(よかった、ちゃんと聞いてたっぽい)」



柏木さんはしっかりしているように見えて、ちょっと抜けている。


俺を途中で見失って、周囲を見渡しながらオロオロしている時もあるし。

電柱の影に隠れていたら散歩中の犬のマーキングに巻き込まれそうになって、懸命に悲鳴を飲み込んでいたりするし。


はじめは、クールビューティな柏木さんにストーカーされるなんて、意味がわからなかった。

少し離れたところから、こっそり俺を見る柏木さんに現実味がまったく湧かなかった。

むしろ、完璧すぎるその表情が崩れることがないから、背中に視線を感じるたび、冷や汗が出て仕方ないぐらいで。



でも、誰も知らない柏木さんを知ってしまったら。


え、いや、あの……。

想像してみてほしい。


いつもエベレストの山頂に、ひとりで佇む孤独なお姫様がわたわたと慌てたように挙動不審になって。

いつもまっすぐと前だけを見つめる凛としたライトブラウンの瞳が、頼りなげに揺れて。


俺を見つけて、ほぉっと胸を撫で下ろしていたり。

犬との戦いになんとか勝ち抜いた後、安心したように眉を下げて、俺を再び探す視線。


もう、もう、なんていうか―――



「(可愛いすぎて、死んだ……)」



あの瞬間、俺は孤高のプリンセスじゃない”柏木希羽さん”に落ちたんだ。