例えるなら、青空に浮かぶ、ふわふわの真っ白な雲。


眩しすぎる太陽の光線を透かして、淡いきらめきに変えてくれる。


そんな漂う雲をつかむなんてできないと思っていたから、遠くから見ているだけだったのに。



「(ふわふわ雲の新庄くんが、なぜかあたしのとなりにいます……)」



立ち入り禁止の屋上へ続く、誰も来ない階段。そこにふたりで座って過ごすお昼休み。


新庄くんはいつものように「食べよっかー」と、もったいなくて拝みたくなるぐらいの笑顔をくれた後、持っていたビニール袋からたまご蒸しパンを取りだした。



「(あっ!今日こそは……!)」



毎回、頭の中に用意している会話を繰り出そうと息を吸った。


そう、落ち着いて。


たまご蒸しパン、好きなんですね、

おいしいですよね、

あたしも好きです……って、



「っ、、たまぎょっ……っ!」

「……、」



ああ、滑舌開発センター効果なし。

でも、大丈夫! それは想定内。練習の効果はそんなにすぐ出ないのである。

大事なのは、諦めない心なはずだ。


……きっと、そう。


となりを見上げる。新庄くんが小さく頷く。あたしの考えていること、わかってくれているみたいに目を細めて、続きを待ってくれている。


『俺で練習したらいいよ』


そう言ってくれたあの時と同じ優しい瞳。