「柏木さん、エビフライ好きなの?」

「はい。」

「俺も好き。あ、俺さ、子どもの頃は身よりシッポが好きだったんだよねー」

「は……、い、?」

「カリッとしてておいしいじゃん? だから子どもの頃は、姉ちゃんに身をあげてシッポもらってた」

「……、」

「そしたら、ある時さ。親が気を利かせたつもりなのか、俺の皿にあらかじめシッポの部分だけ盛って出してきてさ」

「っ、」

「んで、姉ちゃんの皿にエビフライの身の部分が山盛りだったんだよね」

「!!!」

「それ見た時、すげぇショックで。やっぱりエビフライは身があってこそのシッポだったって気づいて。姉ちゃんに必死で泣きついて、身を譲ってもらった」

「……っ、」

「あれは、俺の中で”エビフライはそのまま1本がやっぱりいい事件”としてトラウマ化してる……」



はぁ……とため息をついた瞬間。



……くすっ。

くすくすっ。



それは控えめな音。

でも、聞き逃すなんて絶対にありえない可憐で自然な笑い声。


視線を上げれば、口元を手で隠しながら肩を震わせる柏木さん。

目が合うと慌てていつものように表情を引き締めようとして、でもできなくて……。



「っ、あ、ご、ごめんなさい」

「……」

「こ、子どもの頃の新庄くん、かわいいなって、」

「っ、」

「あ、あの、よかったら……、これ、ひとつ、食べますか……?」



細い指が、お弁当箱の中のエビフライを指す。

黄金色したおいしそうな、柏木さんの手作りの、もちろん欲しいけど。



……もっともっと、大切なもの、今もらったから。


「(笑ったところ、初めて見た……)」


長い睫毛に楽しそうな余韻を残して……

いつも静かであろうとしている瞳にあたたかい熱が宿って……



「ご、ごめんなさい、あたし、笑ってしまって! それに、あたしの手作りとか、嫌ですよね……!」




―――「ううん、そんなわけないじゃん」