純色ロマンティック

「っ、」



見上げたまま固まったあたしに、新庄くんの視線が落ちてくる。



「柏木さん、大丈夫?」


……!!


呼ばれて、もっと身動きができなくなった。


「大丈夫です」


そう、こくんっと頷けばいいだけなのに、新庄くんが視界を占めて……。



「(っ! あたしにはハードル高すぎるよ……!)」



あたしは新庄くんを遠くから見ているだけでよくて。こそこそバレないように、新庄くんにつきまとうしか能のないストーカーで。

話しかける勇気なんて元々ないし、一生話すこともないと思っていた。


こんなふうに、まっすぐに見てくれる視線とか。

なんのためらいもなく、かけてくれる言葉とか。



だって、新庄くんはあたしなんかとは違う世界のきらきらした人で……。

友達100人いるコミュ力おばけな人で……。


だから、あたしは……。


なぜか、胸の奥が苦しくなった。

なのに、安心するような、泣きたくなるような、ふわりとすくい上げられるような不思議な感情。

それはきっと、肩にある新庄くんの腕が、頬に伝う熱が、鼓膜に響く鼓動がもたらしてくれている。



……はっ!

いや、まって、まって?!


こ、こんなに接近したらアウトなのでは?! あたし、いま新庄くんに触れている。

対象者に近づきすぎたら、接近禁止令ものだ。

だめだめ! 絶対だめ!

そんなものをいただくストーカーはストーカー界の風上はもちろん風下にだっておけません!

あたし不届き者のストーカーにはなりません!


ストーカーは相手に迷惑かけないように、存在を知られないように、こっそりと。

これ、柏木希羽のストーカー心得第1条てす。



「(は、離れないと……!)」



身体に力を入れて遠ざかろうとしたのに、反対にぐっと縮まったあたしと新庄くんの距離。


ぐっと高まった体温が、さらに抱き寄せられたのだと知らせる。



視界が新庄くんの制服だけになって……。

あたしの頭を抱えるように、両耳を塞ぐように、新庄くんの腕があたしを包み込んで……。


外界の音がなくなった中で唯一聞こえる、この鼓動は誰のもの?

あたし? それとも……。



「……うん。もう、大丈夫だよ」



触れていたすべてのぬくもりが離れると、新庄くんの手にはあたしのお財布があって、さっきまでいたはずの男の人はいなくなっていた。