純色ロマンティック

視線をコンビニの中にいる新庄くんに戻す。


なにやら加藤くんと話している新庄くん。

なにを話してるのかな。



「(ああ、読唇術学んでおくんだった!)」



塀化の次は電柱化かな、と思っていたけれど。読唇術が先だ。

それなら、遠くからでも新庄くんの会話をちゃんと把握できる。


よし、思い立ったが吉日。スマホを取り出す。さくさく調べて。



「(あった!読唇術教室。よし、予約完了!)」



スマホから顔を上げて、新庄くんを見ると、何やら渋る加藤くんをずるずる引きずって、店内一番奥のドリンクコーナーまで移動している。

加藤くんはレジを指さして、ぶつぶつ言っているぽい。


確かに、肉まんならレジだもんね……?

急に喉が渇いたのかな?

それとも、肉まんのお供になにかドリンクを買うのが新庄くんルール?

そこに友達も巻き込んで引きずっていくなんて、すごく高度な技だ! あたしには到底できない! その前に友達がいない! ……しゅん、墓穴。


いやいや、気を取り直して。

あ、そうそう。今日は加藤くんには大感謝である。

あたしに、ものすごく有益な情報をくれた。



「(新庄くん、やっぱり友達100人は軽く超える勢いなんだ!)」



すごい、さすがは新庄くんだ。

高校に入学してまだ8か月ぐらいしか経っていないのに。もう、そんなにお友達がいるなんて。

やっぱり新庄くんで間違いなかったという気持ちと、どうしても浮かんでしまうのは。



「(あたしなんて、まだ1人もできないのに……)」



俯いた気持ちと同じ温度の北風が、首筋を冷ややかに撫でていく。


落ち込むな、柏木希羽。

だからこそ、あたしは毎日こうやってバレないように新庄くんを観察しているんじゃないか。



新庄くんの、誰に対しても同じように向ける人懐っこい笑顔。

分け隔てなく、フランクに接する姿。

バスケをしているときは真剣そのもので、光る汗までもが手を触れてはいけない宝石のように輝くかっこよさなのに。

授業中のあくびをかみ殺している力の抜けた姿は、まどろむ子猫のように柔らかくて無防備。


どこにいても、なにをしていても、目を逸らすなんてできなくなってしまう。



「(見れば見るほど、ずっと見ていたくなる理想の人……)」



神さま、感謝申し上げます。

あたしの世界に、新庄くんを産み落としてくださり、ありがとうごじゃ、っ……ご、ございます!(あとで滑舌開発センターも予約しよう)


神に心の底からの祈りを捧げながら、新庄くんに思わずうっとり魅入ってしまって、はっと気づく。



「(もしかして、いまって、コンビニに入るチャンスなのでは?!)」



店内の一番奥にいる新庄くんたちからは、入り口付近は死角なはずだ。

新庄くんが肉まん直行じゃなく、まずドリンクコーナーへ行ってくれて助かった!


よしっ、と勢い込んで、小走りに駆け出した時。



「あっ?!」



平らなアスファルトに、ローファーのつま先が引っかかる。

凹凸なんてないのに、あたしってばもう、どうしてっ、なんて自己嫌悪を深める間もなく。

身体が前に傾いて……



「(こ、転んじゃう!!)」