大学卒業間近。卒業後いよいよ優武との同棲生活が始まる。色々準備に追われて忙しない、そんなある日だった。いくら補聴器の調整を施しても聴き取りづらさを感じる事が多いと気づく。明らかに聴力が低下している。主治医に診てもらうと、このままいくとそう遠くないうちに聴覚を失う可能性があると言われる。

まるで余命宣告されたような気分だった。放心状態のまま帰って、気づけばベッドに倒れ込んでいた。涙が止め止めなく溢れて枕を濡らす。声を殺して咽び泣いた。

どうしてこんなに胸が痛い。どうしてこんなに悲しいんだ。

小学生に上がってからすぐ聴力検査で引っかかり、名大病院で検査をして若年発症型両側性感音難聴と診断された。その時からどんどん聴力は低下していって高学年になる頃には補聴器がないと授業が聞き取れなかった。治療はできない。失った聴力は回復しない。いずれ聴力を失う事になる。そんな暗い将来をずっと聞かされてきた。

とっくに吹っ切れていたはずだ。何故冷静でいられない。何故こんなに衝撃を受ける。ずっと知っていた事じゃないか。もうこんな絶望、とっくの昔に乗り越えたはずだ。