「どうでしょう。昔からある手法ですが、出会った時に印象を悪くしておくと、案外その後は好感度が上がる一方だったりします。ほら、有名なバイオリンの作り手見習いの青年と、物語を書くのが好きな女の子のアニメとか」

「まあ、恋愛ではありえますけどねえ……嫁姑では、その後ちゃんと好感度上がるのかどうか……」

「舞香さん、奥様が気に入ってるのが楓さんでよかったですよ。あの人ならちょっとしたことですぐメッキが剝がれるので、奥様もいずれ絶対気づきます。その時舞香さんの素晴らしさが分かりますから」

 優しい笑顔でそう言ってくれる圭吾さん。圭吾さんって、何気に楓さんには毒を吐くので、時々ぎょっとしてしまう。敵に回すと怖いタイプかな、と思ったり。

「あ、ありがとうございます! 次からは好感度を上げられるよう頑張ります!」

 両手でミルクティーを包む。温かな温度にほっとしたとき、私はふと例の件を思い出し、隣に座っている彼に尋ねてみた。

「玲ってお尻にホクロあるの?」

「ぶっっ!!」

 彼は豪快にミルクティーを口から吐き出した。慌ててティッシュで車のシートをふき取る。

「ちょっと、汚いなあもう!」

「お前、そんなことどこで聞いた!」

「えー? 楓さんが言ってた。いかにも玲と体の関係がありますーってことをアピールしながら。実際どうだったの?」

 私が吹きながら尋ねると、玲は顔を真っ青にさせる。目の前で貞子を見たかのような反応だ。そして小さく首を振りながら言った。

「そんなわけないだろ……やめろよ……絶対生気取られるもん……」

「楓さんの扱い」

「もしかしてトイレの時、そんな事言われてたのか! え、でも何で楓が」

 混乱するように呟く玲に、私が考えた事を教えてあげた。

「マミーじゃない? そこから情報が楓さんに行って、楓さんは利用した、と」

「ああ、そうか……」

「やっぱりねー。一応聞いたけど、そうだろうなって思ってたんだよ。だから、『ホクロは子供の頃に消えたの知らないんですか?』って言ってみた。楓さん顔真っ赤にしてた」

 玲と、それから運転席の圭吾さんまでもが、驚愕の顔をして私を見ていた。私は拭き終えたティッシュたちをゴミ箱に押し込み、平然と答える。

「カマかけたんだけどねー」

「……お前、ちょっとはこう、戸惑ったりしなかったのか?」

「全然しなかったね」

 即答すると、玲は嬉しそうな、でもどこか悲しそうな複雑な顔をしていた。なんでそんな顔をしているのかよく分からず首を傾けると、ハンドルを握ったまま圭吾さんが言った。