日給10万の結婚

 本当に突然の事なので驚いたが、まさかここで嫌がるそぶりなど見せられるわけがない。不思議に思いながらそっと隣を見上げてみると、玲の目が厳しく光っていることに気が付いた。

「玲?」

 声を掛けたとき、向こうから私たちを呼ぶ声がした。

「玲さん、まさかご結婚されたとは」

「ええ、とーっても驚きましたよ」

 見てみると、上品そうな夫婦が立っていた。女性は着物を着ている。優しそうで穏やかそうな人だ。男性も、殆ど目の奥が見えないほど細い目をした、柔らかな表情をしている。

「金城さん、今日は出席できないと伺っておりましたが」

「ええ、予定があったんですがキャンセルしました。来ないわけにはいかないでしょう、まさか玲さんの結婚報告パーティーになるなんてね」

 着物のおばさんがふふふっと笑う。細目の男性も同意した。

「ああ、本当にびっくりした。先週あなたのご両親から連絡を貰うまで寝耳に水で」

「ええ、本当に信じられないわ」

 口をそろえてそう言った夫婦は笑いながらそう言ったが、私はその光景に何やら得体のしれぬ恐怖を感じた。

 こんなに穏やかに、にこやかに喋っているのに、二人ともどこかおかしい。上手く説明できないが、言葉の裏に何か冷たい物を感じるのだ。それは私の心がひやっと冷えてくるほどの。

 この二人は確か……金城さんって言ったっけ。そんな人たちいただろうか? 玲の発言から聞くに、元々来れなかったはずの人達が急遽参加したらしいから、私に渡された資料にはいなかったのかもしれない。それにしても、玲もどことなく緊張しているような……

「娘も来ていますよ。楓!」