ここ最近外にはまるで出ていない軟禁生活なので、確かに外出したい気はある。強く頷いて同意した。

「確かに出たい! 頑張る!」

「そのいきだ」

 にやりと玲が笑う。俄然やる気が出てきたぞ、ついに外に出るのか私。なんかやらかさないように気を付けなければならない。

 ずっと黙っていた圭吾さんが口を開いた。

「全部予約しておいたので安心して玲さんについて行ってくださいね」

「全部?」

「食事以外も、色々と」

 どこか含みのある言い方だ。はて、買い物に予約は必要ない気がするのだが?

 しかし深く追及はせず、手元の食事をつづけた。

 その後食事を終えたあと、言われた通り買ってきてくれたという服を見に行った。クローゼットに掛けてある一枚のワンピースだった。見た目からして高級だと分かる材質のもので、こりゃ全身三千円の格好とはまるで違うなと唸った。恐る恐る値札を見てみたけど、やっぱりちゃんと取ってあったのでそんなものはなかった。

 一度着てみよう、と手に取ってみる。服を脱いで着てみると、素晴らしいことにサイズはぴったりだった。よくこんなピッタリなものを買ったなあ、と感心する。

「ちょ、ファスナーが上げられん」

 背部にあるファスナーが、一人では手が届かない。今までこんな形のワンピースなんて持っていなかったからだ。そのまま必死に何とかしようとあがいたが、自分の手では届きそうにない。体固いのか、私。

 と、すれば……誰かに上げてもらう?

「いやそんな一人しかいないじゃん」

 私は羞恥心も捨てて、そのまま廊下に飛び出した。この家にいるのは、私とあと二人しかいない。

「圭吾さーん! 圭吾さん?」

 呼びながら探してみるも返事はない。すると、リビングの扉が開き、圭吾さんではなく玲が顔を出した。私を怪訝そうに見ている。

「どうした。圭吾はつい今さっき帰った」

「えー! 帰っちゃったの!」

「もう帰る時間だろうが。なんで呼んでた」

「明日着るワンピースを試着してみたんだけど、ファスナーが上がらなくて。だから圭吾さんを」
 
 私が説明すると、玲は不快そうに眉を顰めた。そして顔を歪めながら言う。

「なんで圭吾を呼ぶ? そこは俺だろうが。俺たちは夫婦だろ」

「形だけじゃん、どう考えても圭吾さんの方がいいに決まってる」

「なんでだよ」

「人の美乳を貧乳と貶す男にはこの役割は重荷かと」

「自分で美乳とか呼んでんじゃねーよ」

 なぜか笑った玲は、私の肩を押してくるりと方向転換させた。そしてファスナーを持つ。

「髪持ってろ。どのみち明日は圭吾は休みなんだから、俺がやらないといけないだろ」

「あ、そっか。なら仕方ない、玲で我慢する」

「上から目線だな」

 私は髪を軽く持つ。そして玲が案外優しい手つきでファスナーを上げてくれた。ほんの少しだけ手先が首に触れる。性格が悪い男相手でも、こういうシーンはさすがに私も緊張してしまう。