「俺をそんな小さな男と一緒にすんな。浮気とかダサいことするか」
 
 不快そうに言った玲は、私から離れる。少しドキッとしたのが悔しくて、私は言い返した。

「婚約者いるのに他の女と結婚してるじゃん」

「つかそもそも婚約に賛成してなかったっつーの。だから俺からすれば婚約は成立してないんだよ。相手にもはっきり言って知ってるはずだし」

「あ、そういえば婚約者さんってどんな人なの? 何でそんなに結婚したくなかったの?」

 思い出して聞いた。玲だけじゃなく、あの圭吾さんまでも嫌そうな顔をしていた。果たしてどんな女性だというのか。

 聞かれた彼は、一瞬表情を固める。そして少し顔を歪め、遠い目をした。

「まあ、会えばわかる……」

 玲が悲し気に言ったので、私は何も言えなくなってしまった。あの玲をこんなに困らせるって、一体どんな女だというのだ。気になりすぎる。

 彼ははあとため息をついて言った。

「まあ、ゴリラ女の方がよっぽどよかったのは間違いない、まあお前とは正式な夫婦じゃないけど」

「いい加減にゴリラ呼ばわりやめてよ」

「俺はゴリラ好きだよ、根は優しいっていうしな」

「フォローになってないよもう! 寝る、おやすみ!」

 私は乱暴に残りの本たちを片付けると、そのままリビングから出た。背中で玲の笑い声が聞こえている。こんな可憐な女を捕まえてゴリラ呼ばわりなんてどんだけデリカシーがない男なんだ。モテるなんて絶対に嘘だね、あいつの虚言に違いない。

 相変わらず広々したベッドにダイブした。玲に対するいら立ちが止まらなかったので、ベッドの真ん中で大の字になってやった。端っこで狭く寝ればいい。

 ベッドに横になった途端、少しゆっくりしようと思っていたのに、自分の意識はすぐさまぶっ飛んでいった。玲が部屋に来る前に、私は夢の中へ飛び込んだのである。