二人はひとしきり笑うと、一旦呼吸を落ち着けて言った。
「まあ、あとはお前のガッツが伝わったのかもな。俺たちが帰ってくるまでの間もその姿勢を保持しながら自己学習するなんてクソ真面目なところが」
「帰ってきた時驚きましたよ! 凄く綺麗な姿勢で座ってたから、それだけで大分印象が違います」
「え、本当ですか? それは嬉しい、でも正直体は悲鳴を上げてますが……」
手をプルプル震わせながら力ない笑みを浮かべる。玲はそんな私に労いの言葉もなく、飄々として言った。
「ま、日給十万だからそれくらいはしてもらわないとな。飯にしよう買ってきた」
圭吾さんが持っていた紙袋を私に見せてくれる。ああ、そういえばお腹すいた。お昼も適当に済ませただけで、胃袋はほぼ空っぽになってしまっているから。
ふらふらと立ち上がりテーブルの上を片付ける。圭吾さんが慌てて言う。
「僕やりますよ!」
「とんでもない、です。すぐに片付けますね」
「ふらっふらの老婆みたいになってるな、大分しごかれたんだな」
玲は面白そうに笑っている。笑い事じゃないので睨んでやろうかと思ったけれど、十万と思えばこれぐらい全然大したことじゃない、と思ったのでやめた。圭吾さんは私を労わってくれ、その優しさが身に染みた。玲もこれぐらい優しさがあればいいのに、こいつ人を貧乳呼ばわりするし性格悪いからな。
その後、三人で食卓を囲んで食べた。とっても美味しいお店の食事だった。
圭吾さんはお風呂の準備までしてくれ(頼り過ぎじゃないか?)その後帰宅していった。どうやら、帰宅と言ってもこのマンションの下の階に住んでいるらしい。
食事を終えると、まだ仕事をしたいという玲は仕事部屋に籠った。そんな彼に勧められお風呂を頂いた。酷使した筋肉がほぐれ極楽の時間となる。
その後また穴の開きそうな部屋着を取り出してきて着、寝るには時間が早かったので再度姿勢を意識しながら本を読み漁っていた。一分一秒も無駄には出来ないのだ。
しばらく経ったあと、リビングに玲が入ってきた。私が気づかない間にお風呂も終えたらしい、濡れた髪のまま彼は歩いていた。
「お前まだそれやってんのか」
テーブルに座り資料とにらめっこをする私に、彼はそう声を掛けた。
「うん、まだ寝るには早いし」
「もう終わりにしておけ」
「でもまだ時間早いし」
「そのクソ伸びた背筋も今ぐらいは力抜け。しょっぱなから飛ばし過ぎると後で転ぶぞ」
「でも」
私が言い返そうとする前に、玲は隣にやってきて開いていた本を閉じた。私を見降ろし、その長いまつ毛を揺らす。
「畑山さんに気に入られただけで今日のお前の仕事は完璧」
「そ、そんな気に入られた感はなかったけど……スパルタだったし」
「あの人がスパルタってことは気に入ってんだよ。見込みある人間しかやらないから。俺なんて子供の頃から死ぬかと思うくらい詰め込まれた」
玲はそう言いながら広げた本たちをまとめていく。
「子供の頃からそんなに厳しかったの?」
「ああそれは勿論。うちの親は俺を息子として見るより後継者として見る方が強かったからな。学業や部活動とかも完璧にしないと駄目だった」
淡々という玲だが、その声からはどこか悲壮感を感じるのは私の気のせいなのだろうか。結婚だって玲の意志を無視して決めたらしいし、あまり感心出来ることじゃないと思う。
私も親に恵まれなかったと思っているけれど、玲も違った意味で大変だったんだろうか。
「まあ、あとはお前のガッツが伝わったのかもな。俺たちが帰ってくるまでの間もその姿勢を保持しながら自己学習するなんてクソ真面目なところが」
「帰ってきた時驚きましたよ! 凄く綺麗な姿勢で座ってたから、それだけで大分印象が違います」
「え、本当ですか? それは嬉しい、でも正直体は悲鳴を上げてますが……」
手をプルプル震わせながら力ない笑みを浮かべる。玲はそんな私に労いの言葉もなく、飄々として言った。
「ま、日給十万だからそれくらいはしてもらわないとな。飯にしよう買ってきた」
圭吾さんが持っていた紙袋を私に見せてくれる。ああ、そういえばお腹すいた。お昼も適当に済ませただけで、胃袋はほぼ空っぽになってしまっているから。
ふらふらと立ち上がりテーブルの上を片付ける。圭吾さんが慌てて言う。
「僕やりますよ!」
「とんでもない、です。すぐに片付けますね」
「ふらっふらの老婆みたいになってるな、大分しごかれたんだな」
玲は面白そうに笑っている。笑い事じゃないので睨んでやろうかと思ったけれど、十万と思えばこれぐらい全然大したことじゃない、と思ったのでやめた。圭吾さんは私を労わってくれ、その優しさが身に染みた。玲もこれぐらい優しさがあればいいのに、こいつ人を貧乳呼ばわりするし性格悪いからな。
その後、三人で食卓を囲んで食べた。とっても美味しいお店の食事だった。
圭吾さんはお風呂の準備までしてくれ(頼り過ぎじゃないか?)その後帰宅していった。どうやら、帰宅と言ってもこのマンションの下の階に住んでいるらしい。
食事を終えると、まだ仕事をしたいという玲は仕事部屋に籠った。そんな彼に勧められお風呂を頂いた。酷使した筋肉がほぐれ極楽の時間となる。
その後また穴の開きそうな部屋着を取り出してきて着、寝るには時間が早かったので再度姿勢を意識しながら本を読み漁っていた。一分一秒も無駄には出来ないのだ。
しばらく経ったあと、リビングに玲が入ってきた。私が気づかない間にお風呂も終えたらしい、濡れた髪のまま彼は歩いていた。
「お前まだそれやってんのか」
テーブルに座り資料とにらめっこをする私に、彼はそう声を掛けた。
「うん、まだ寝るには早いし」
「もう終わりにしておけ」
「でもまだ時間早いし」
「そのクソ伸びた背筋も今ぐらいは力抜け。しょっぱなから飛ばし過ぎると後で転ぶぞ」
「でも」
私が言い返そうとする前に、玲は隣にやってきて開いていた本を閉じた。私を見降ろし、その長いまつ毛を揺らす。
「畑山さんに気に入られただけで今日のお前の仕事は完璧」
「そ、そんな気に入られた感はなかったけど……スパルタだったし」
「あの人がスパルタってことは気に入ってんだよ。見込みある人間しかやらないから。俺なんて子供の頃から死ぬかと思うくらい詰め込まれた」
玲はそう言いながら広げた本たちをまとめていく。
「子供の頃からそんなに厳しかったの?」
「ああそれは勿論。うちの親は俺を息子として見るより後継者として見る方が強かったからな。学業や部活動とかも完璧にしないと駄目だった」
淡々という玲だが、その声からはどこか悲壮感を感じるのは私の気のせいなのだろうか。結婚だって玲の意志を無視して決めたらしいし、あまり感心出来ることじゃないと思う。
私も親に恵まれなかったと思っているけれど、玲も違った意味で大変だったんだろうか。



