日給10万の結婚

 唖然とした顔で、玲が圭吾さんに尋ねた。

「どういう風の吹き回しだ? 何か企んでるんだろ」

 疑心暗鬼の顔で玲がそう言うと、圭吾さんがにっこりと笑った。

「それがですね、これはたくらみでもなんでもなく、社長と奥様が本当に心から思っている手紙と見て間違いないです」

「……なんでこんなことになってる? あいつらが言い出すわけがないセリフばっかりだ」

 玲は顔を歪め、片手で手紙をひらひらと揺らす。圭吾さんは笑って言った。

「玲さんがご両親に絶縁宣言をしたあとの事、僕はしっかり見てましたよ。お話しましょう」

 そう言って、圭吾さんは私たちに三本の指を立てた。

「三つ。彼らがプライドすら捨てて玲さんに許しを乞いだした理由が、大きく分けて三つあります。まず一つ目は、玲さんが中心となって進めていたあの大きなプロジェクトが、あなたが突然いなくなってしまったことにより、大混乱を招いています」

 私は玲の顔を見上げる。彼は心当たりがあったらしく、ああ、と小さく呟いた。圭吾さんは私に説明するように言ってくれる。

「玲さんは二階堂の後継ぎとしてとても優秀な方でした。そのために幼い頃から教育されてましたしね。経営の才能もあったので、若くてもぐいぐい会社を引っ張っていました。ここ最近、大きなプロジェクトを一任され順調に進めて行ってたんです。玲さんがいなくなり、混乱しているんです」

 そういえば、畑山さんも、玲はとても頭がよくて優秀だった、と何度も言っていたっけ。普段の奴を見るに信じられないのだが、本当なのだろう。仕事は出来る男だったのか。

 圭吾さんはニヤリと笑う。

「っていうのを、玲さんなら分かってるはずですよ」

「小さな仕返しだ。まあ混乱はするだろうけど、何とかなるだろ」

「社長が必死に何とかしよう、としている段階です。これが一つ目」

 圭吾さんがにやりと笑った。

「次に二つ目。奥様と楓さんの仲間割れ」

「え!!?」