日給10万の結婚

「……お義母さま、あの」

『正直に言ってください。あなた、玲に借金を肩代わりしてもらったんではなくて? 私は決して怒りません、親のせいで借金を背負うことになったあなたの境遇に酷く同情しているのです。その上弟もいるのに……そこに玲が現れて、肩代わりしたのでしょう。そしてその代償に、あなたとの結婚を提案したのでは? あの子は楓さんと合わないようだったから、他に結婚相手を探していたんですね。でも結局見つからず、お金を使ってあなたと結婚した』

 やけに優しい声色が逆に怖い。これなら、普段通り敵意を持って接してくれている方がずっといいと思った。

 憐れみを持ちながら、私にそんな話をしないでほしい。

『舞香さん。正直になりましょう。そうすれば、借金は私が肩代わりします。お金のために結婚したなんて、あなた自身もあまりに不幸です。まだお若いのだし。むしろ、息子がご迷惑をおかけしたお詫びに慰謝料をお渡しするわ。だから、本当の事を言って』

「……いえ、私は」

『それに……さすがのあなたも分かるでしょう? 二階堂の妻が、借金まみれだったなんてことが世に出回ればどんな目で見られるか。いいえ、これは二階堂じゃなくても、正直息子が結婚する相手としては苦言を言ってしまうのは当然でしょう」

 何も言葉は出なかった。向こうの言う通りだったからだ。

 私と玲は借金を肩代わりしてもらうことを条件に結婚した。私は三千万の借金を背負っていた女で、彼に雇われただけ。こんな関係がバレてしまっては、今までの生活を続けるのはあまりに難しい。

 楓さんとお義母さまは繋がっているだろう。和人のこともきっとお見通しだ。役割分担して調べ上げた内容を、それぞれ私に攻撃してきた。そんなところだと思う。

 何も言い返せない私に、満足げに彼女は言った。

『玲がご迷惑をおかけして本当にごめんなさい。今後のあなたへのフォローは私が責任をもってしっかり行います。明日、玲も帰ってくるでしょう? 一度みんなで話し合いませんか。そして、全員が幸せになれる方法を導き出すんです。いいお返事を、待っていますね』

 それだけ言うと、電話は切れた。耳にツーツーと高い音が流れてくる。スマホを耳から離す余裕もないくらい、私は呆然としていた。

 舐めていたと思った。あの二人を。侮っていたのだ。

 今まで、彼女たちの攻撃は上手くかわせていたと思っていた。好戦的な自分の性格も幸いして、へこたれることなくやってきた。でも、全て無駄だったのかもしれない。

 その気になった二階堂と金城家にとっては、私と玲の関係を調べ上げることすら、容易だったのだ。

 愕然として先ほど玲に送ったメッセージを見直す。まだ既読にはなっていない。

「どうしよう、玲……」

 分かってる。

 初めはただ金のためだけに結婚して自分を磨いた。それが私に与えられた仕事だからだ。だから、お義母さまが借金を肩代わりする、慰謝料までくれると言ってくれれば、この関係が無くなっても私にデメリットはない。そう、はじめの頃だったら。

 でも今は、ただ金のためだけに玲のそばにいるわけじゃない。たとえ一方通行でも、彼という人間に好意を寄せて力になりたいと思っている。

 私は借金チャラになってめでたし、でも、玲はどうなる? 結局自分を大事にしてくれなかった親に無理やり結婚させられるのだろうか。

 彼の気持ちはどうするんだ。親に初めて反抗したいと思った、玲の心の行方は。

「バカ、早く電話してよ……」

 聞きたいことがたくさんある。言いたいことがたくさんある。だから、別に怒りもしないから早く帰ってきてほしい。

 大事な時になぜそばにいないんだ、あの男は。

 泣きそうになりながらスマホを握りしめていると、私の背後から優しい声が聞こえてきた。