「んー疲れた。何か甘い物でも買って帰ろうかなあ」

 街中で一人そう呟いた。

 華道教室を終え、一人で帰路についていた。玲が出張に出かけてからすでに六日、明日帰ってくるはずである。

 この六日間、色々考えて答えも出ている。多分私は大丈夫だ、ちゃんと元の関係に戻れるはず。玲が帰ってきたら、あのキスの弁解をする余裕も与えないように憎まれ口をたたいてやろう。私は気にしてないんだと思わせねばならない。

 夕方になり日が赤くなっていた。人通りの多い街の歩道を歩いていく。街灯に明かりが灯り始め、お店の看板もライトが付きだしている。もう少ししたら一気に暗くなりそうだ、なんて考えていた。

 玲と住むマンションも遠目に見えてきたところで、自分を呼ぶ声が聞こえた。

「舞香」

 振り返って驚く。和人がそこに立っていたのだ。

 もう二度と会うことはないかと思っていた人物だ。会社でたまたま会ってしまった後、当然ながら記憶から消去されていたし、まさかこんなところで再会するなんて信じられない。

「和人……」

 彼はやけに優しい微笑みで私を見ていた。そしてゆっくりこちらに歩み寄る。一体何の用があるのだと、体が強張る。

「え、えーと、なに?」

「この前、悪かったな。俺も頭が混乱して、失礼な事ばかり言っちゃって」

 違和感を覚えて、和人を見る。プライドが高いこの男が、私にこんなふうに謝るのが意外だった。疑いの眼で彼を見る。和人はニコリと笑ってきた。