簡単に荷物をまとめ、泣き出しそうな勇太をなだめて家を出た。これから一人になってしまう勇太は大変だと思うけれど、元々私が貯めておいた貯金もあるので、何とかやっていけるだろう。私よりしっかりしてる子だ。

 二階堂さんは私たちの別れを急かすことなく、外で待っていてくれた。しばらく時間が経ち、ようやく外に出た頃には、すでに空が赤くなっていた。アパートの正面には、場違いすぎる高級車がどんと停まっており、ついたじろぐ。

 二階堂さんは無言で助手席を開けてくれた。そんな扱いもしてもらったことはないので、驚きで見上げてしまう。随分ぶっ飛んだ仕事を持ち掛けてきたし、なんだか横暴そうな口ぶりだったので、こんな優しいことをするんだ、と驚いた。

 が、彼は言う。

「変な顔するな。こういう扱いにも慣れてもらわないと困る」

「……変な顔って」

 ぶつくさ一人で言いながら乗り込む。変な顔はないじゃないか、ちょっとびっくりしただけだもん。でもこういうのを当然と思うほどの女にならないといけないのか。

 運転席に座った二階堂さんは早速車を発進させる。案外、ゆっくりとした安全運転だった。

 そのまま車は車道を走って行く。

 今更ながら、緊張してきた。これからどこへ行くのか、何をするのか、全て分からないままだ。ふわりとしたことしか分かっていない。昔知り合いだったと言われても、ほとんど記憶に残っていない二階堂さんは初対面のようなものだし。

 まず何から聞こう、と頭の中がぐるぐるする。と、先に発言したのは向こうだった。

「あのさ」

「え? はい!」

「別に弟に連絡とかは普通にしていいし、時間に余裕があればいつでも会いに来て構わない。あらかじめ言っておいてもらいたいけど」

 不愛想にそう言ったのを聞いて驚いた。

 まさか第一声がそんな優しい言葉だったとは思わなかった。私は頭を下げる。

「あ、ありがとう……」