「あんな男と半年も付き合ってたのか? どう見ても全くいい男じゃない。顔だって別に良くないし二股掛けるし、人を見下してるし。あの後あいつを調べたら、まあそれなりに仕事は頑張ってるらしいけど、自己評価が高すぎて痛い奴だって判明した」

「なんでそんなことまで調べてたのよ」

「なんであんなのと付き合ってたんだよ。お前が! 半年も!」

 やけに強い言い方をされ、少しのけぞった。凄い圧を感じたのだ。頬をポリポリと掻きながら正直に答えた。

「まあ見る目無かったのは自覚してるし反省してるよ。友達の紹介で付き合いだしたんだけどさ、仕事頑張ってて大人っぽく見えてたんだよね。自信家なとこは知ってたけど、そこまで痛い奴って思わなくて」

「半年も見抜けなかったのか」

「まあ、三か月二股掛けられてたみたいだけど、それにすら気づいてなかったから……案外自分は鈍いのかもね。気を付けないと。今後はもっといい男と付き合えるように見る目を磨かないとね」

 苦笑いして答えると、玲の目が分かりやすく見開かれた。

「今後?」

 そう聞き返してくるやつに、今度は私の目が見開く。

「玲とはいずれ離婚する予定でしょ? そのあと、って事だけど……」

 自分で説明して、なぜかずんと落ち込んだ。心が深く沈んだことに気が付く。

 玲との関係はいずれ終わりが来る。私が完璧な妻を演じて、周りから認められた後は、離婚して終わりにする予定だ。玲は『前妻が忘れられない』という理由でその後の結婚を断るという当初からの設定がある。だからこそ、『あの妻なら忘れられなくてもしょうがない』と思われるぐらいの女になるのが、約束だった。

 そこまでになったら、私は玲の元を去らねばならない。そして普通の生活に戻り、平凡な人生となる。そうなればもちろん、いつかは恋愛して結婚したいという普通の夢だって持っている。

 でも、本当にそんな相手が見つかるんだろうか。

 このままで、本当に。

「……そうだったな、そういう約束だった」

 玲がぽつりと呟いた。紅茶をやたらゆっくりした動作で飲むと、彼は小さな声で続ける。