なぜ思い出さなかったんだ。さっき感じた引っ掛かりはこれだ、和人の働く会社だったのだ。ここ数か月バタバタしてすっかり忘れていた。

「か、和人」

 久しぶりに見る元カレの顔は、懐かしさも何も感じなかった。あっちは変わってないなあ、と正直に思う。まあ、普通の人間は子供じゃあるまいし数か月で雰囲気なんて変わるわけがない。だが、私はその普通とは違い、身に着けているものも知識も格段に上がっているので、あっちは不思議そうに見ていた。

 そして、彼の隣りには、可愛らしい女性が寄り添うように立って、私たちを見比べている。

「知り合い?」

 和人は小さく頷いた。

「ほら、前付き合ってた」

 そう言われると、彼女はわざとらしく目を丸くさせた。

「ああ、貧乏生活してた気が強い看護師の!」

 じろりと和人を睨んだ。私のこと、どういう風に説明してんだよ。いや、合ってるけどさ。

 女性はウルウルとした目で見上げてくる。その女という武器をふんだんに使った立ち振る舞いを見て、自然とメロンを思い出した。

「あの、もしかして和人さんに何か……? あれは私が悪かったんです、私が勝手に好きになっただけだから、彼は悪くなくて」

 予想はしていたが、この女があの時の浮気相手だとようやく確信できた。自分の頬は引きつっているだろう、別にこんな男、最近は記憶に蘇ることすらなかったぞ。てゆうか、別れた当日ですら思い出す余裕がなかったんだぞ。

 私はにこりと笑って見せた。

「ご安心ください。私、大島さんのことなんてすっかり忘れておりました。今日は違う用件でこちらに」

「違う用件ってお前、嘘だろ。職種は全然違うんだし、そんな着飾ってわざわざ来て……」

「本当だけど。夫に忘れ物届けにきたの」

 正直に言ってやると、二人はぽかんと口を開いた。と、同時に勢いよく吹き出す。馬鹿にしたような視線でこちらを見てきた。女が言う。