普段から使っている電子ピアノとパソコン、集音マイク等々を沢里用にセッティングしていると、沢里は物珍しそうにキョロキョロと部屋を見回している。
「いつもここでレコーディングしてるのか?」
「ああ、うん。まあレコーディングなんて大層なものじゃないけど。声も音もここで入れてるよ」
「ここで【linK】の曲が生まれるんだな……!」
女子の部屋に入った感想がそれか。思うところもあるが仕方がない。
私の部屋には電子ピアノとパソコン台を兼ねたローテーブル、楽譜で溢れる本棚くらいしかない。
発声練習をしてから、沢里のパートを確認する。メロディーを彩る低音が柔らかに耳を打った。
「まさかこんなに仕上げてくるとは……」
「えっへっへ」
ピアノに合わせて音のブレを確認してみても沢里の歌は言うことなしで素直に感心してしまう。
きっとたくさん練習したのだろう。本人は褒められて嬉しそうにしている。
「問題なさそうだね。じゃあ録音の準備するからちょっと待ってて」
「あ、その間本棚の楽譜見ててもいい?」
「どうぞー」
持ってきたタブレットの電源を入れ、ヘッドホンと集音マイクの準備をする。
普段から大がかりなセットは使っていない。部屋の隅についたてで作ったスペースに、椅子をひとつ置いた簡易的なものだ。
柾輝くんの部屋のように本格的なレコーディングができるわけでもないが、編集すると意外となんとかなってしまう。