「殴った!?」

 ぎゅっと目をつぶっていると、まず聞こえてきたのは母の大声だった。

 信じられないとでも言うように私に詰め寄ってくる。

「どういうことなの凛夏!? なに考えてるのよ!」

「お母さん、」

「どうしてあんたはそうなの? 家に馴染もうという気がないの!? なにが不満なのよ!」

「君は下がっていなさい」

「あなたっ……!」

 私を責め立てる母を義父が制する。透流さんの視線を真正面から受け止めながら、私は話続けた。

「あの日一緒にいた人は私の実の兄です。私が無理に押しかけてご飯に連れて行ってもらったんです。泣いてたのはちょっと色々な悩みがあって……」

「え……」

 目を見開く透流さんと母。

「凛夏あなた、柾輝と会っているの」

「うん。私にとって柾輝くんは大切な家族だから」

 こくりと頷いてそう言うと母はそれっきり黙り込んでしまう。

「……こちらこそすまなかった。凛夏ちゃんの大切な人のこと悪く言った」

「透流さん、」

「いつか僕も君の悩みを聞ける兄になれるかな」

 そんな透流さんの呟きに、以前なら「それは無理無理絶対に無理!」なんて心の中で叫んでいたかもしれない。

 けれど私は変わった。家族のことを知ろうとしなかった自分を、今は後悔している。

 私は透流さんの目を見て頷いた。遮られるものがなくない透流さんの瞳。

 それが暖かい義父の瞳によく似ていることに、私は出会って一年経った今ようやく気付いたのだった。