「お父さんと一緒だったからいいものを。連絡くらいしなさい! 夕飯作ってあったんだからね」
「ごめんなさい」
「透流はいるかな? 呼んできてもらえるかい」
「え? ええ。部屋にいるけど」
義父の言葉に母は首を傾げている。どうやら私たちになにが起こったか知らないらしい。
心もとなくなって玄関に突っ立っていると、義父に背中を押される。
しばらくリビングで待っていると階段を下りる音が響いてきて、気の重さで心臓が潰れそうになった。
義父はソファで野球中継を観ていて、テレビからわっと歓声が上がったと同時にガチャリとリビングの扉が開く。
「父さん、呼んだ?」
そこには眼鏡を外した透流さんの姿があった。義父に話しかけた後、ダイニング席につく私に気付いて目を丸くする。
「凛夏ちゃんが話したいことがあるそうだよ」
「ああ……そう」
「あの、透流さん。さっきは殴ってごめんなさい!」
間延びさせても仕方がない。私は思い切って頭を下げた。
沢里に涙を止めてもらい、義父に謝るお膳立てをしてもらったのだ。逃げるわけにはいかない。
