「透流も男だから凛夏ちゃんに殴られたってどうってことないさ。気に喰わなかったらどんどんやっちゃって構わない」
「いや、それは……」
「いいんだよ。そうやってゆっくり、家族になっていけばいいんだから」
家族になる。その難しさを私はこの一年ずっと味わってきた。
変わってしまった母の顔色を伺い、透流さんと柾輝くんを比べてはため息ばかりついていた。
義父はそんな私のことをちゃんと分かっていたのだ。その上で、ゆっくりでいいと言ってくれる。
大した会話もせずにいた、可愛げのかけらもない義理の娘に。
「おとうさん、多分私もそのバンド大好き」
食べ終えた串を見つめながらぽつりとそう呟く。義父は黙ってビールを飲んで微笑んでいた。
それからは三人並んで音楽の話をして過ごした。まるで家にいる時とは別人のようにはしゃぐ義父とバンドの話で盛り上がる沢里。
なぜだか二人がずっと昔の父と柾輝くんと重なって、また目頭が熱くなる。
私たち本当の家族みたい。そう言ったら二人はどんな顔をするだろうか。
私はきっと、今日の串カツの味を一生忘れないだろう。
