「ああ。彼がバンドを始める前に、彼の父――つまり僕の幼馴染は亡くなってしまってね。幼馴染は売れないミュージシャンだったんだけれど、僕はそいつの弾く下手くそなギターがずっと忘れられなくて……音楽をやっていた父親と同じ道を進もうとしている彼を見ていると、思い出すんだ。まあ歌は彼の方が断然上手いんだけどね」

 どこかで聞いたことのある話だ。

 懐かしむように宙を見る義父が思っている相手を、私はよく知っている気がする。

 父は音楽が大好きだったけれど、ギターは少し下手だった。

 それでも何度も何度も弾くものだから、クセのある音が脳内にこびりついて離れないのだ。

 ずっと忘れられない音。きっと義父と私は出会う前から同じ音を聞いていた。

「だから応援してるんですね」

「そう。そしていつか彼がメジャーデビューしたら、『僕はデビューする前からのファンだぞ』って言って回るんだ。君たちも趣味は大切にね、やりたいことを諦めてはいけないよ」

「……だってさ。よかったな、リンカ」

 鼻の奥がつんとするのを誤魔化すためにカツを口いっぱいに頬張る。

 甘口のソースがサクサクの衣に染みて奇跡のような旨味を引き立てている。

 なぜ知ろうとしなかったのだろう。私たちには会話が足りなすぎた。

 義父は私のことを疎んではいなかったし、むしろ同じ趣味を持っていた。

 そして、同じ人のことを昔から好きな仲間だったのだ。