君の隣で歌いたい。



 無意識のままふらふらと行き着いたのは家の近くの自然公園だった。

 日も暮れて子どもたちの遊ぶ姿も見られない。

 とにかく落ち着きたくて目に入ったベンチに腰掛ける。

 浅く座り足をのばして、涙が落ちないように空を見上げた。

 右手を目の前にかざすと、中指の爪に貼った絆創膏が血で汚れていることに気付く。

 全力で走って体が熱く、鼓動が収まらない。

 乱れる息を整えようと深呼吸を繰り返していると、ポケットの中でスマホが震えた。

 着信の相手が透流さんだったらどうしよう。

 おそるおそる画面を確認するとそこには『沢里』の文字が表示されていて、思わず眉をひそめる。

 そういえば、先日連絡先を交換していた。

 なぜこんなタイミングで、初めての電話をかけてくるのか。今はとても話す気にはなれなかった。

「リンカ? ごめんなー急に。ちょっとコーラスの部分で聞きたいことが」

 ――いつもどおりの沢里の声を聞くまでは。