悪いことが立て続けに起こると、もういいことなんて起こらないような気分になる。
透流さんの眼鏡が綺麗な放物線を描くのを横目に、私は家を飛び出した。
右の拳がじんじんと痛む。それは初めて人を殴った代償だった。
さらには治りかけていた爪も呼応するように痛みだし、自分のしてしまったことの重大さに体が震え始める。
なにも殴ることはなかった! けれど体が動いてしまったのだ。
なお悪いことに怖くなって逃げ出した。行くあてもなく走り続けているうちに後悔で涙が止まらなくなる。
いくら柾輝くんを馬鹿にされたからといって暴力で解決しようとするなんて、沢里の件で言いがかりをつけてきた先輩たちと同じだ。
