君の隣で歌いたい。



 もう沢里に近づかない方がいいのだろうか。

 そもそも自ら寄って行った覚えはないのだから、避けるしか道はない。

 それではアンチの思うつぼだ。沢里も勝手に避けられてはきっと傷ついてしまう。

 どうすればいいか分からない。誰かに意見を聞きたい。けれど、

 ――柾輝くんには頼れない。

 ここで真っ先に兄の顔が浮かんでくるあたり、私は甘ったれで、だから突き放されて当然なのだ。

 アンチも曲作りも自分の力でなんとかするしかない。結局のところ私には【linK】しかないのだから。

 授業終了のチャイムが鳴る。物足りない単音。もっともっと音がほしい。

 音楽のこと以外なにも考えられなくなるくらいに、脳内を満たしてほしい。


 父の弾いていたコードはまだ思い出せない。