君の隣で歌いたい。



 ピアノを弾くのに支障が出ることは顔を怪我するよりもショックが大きい。

 ため息を吐いて割れた爪を見つめる。すると同じ部分に強烈な視線を感じた。

「それ…………」

 思わず体が固まった。沢里が無表情で私の手を見つめていたからだ。

 いや、無表情ならばまだよかった。瞬きひとつせず目を見開き、口を引き結んでいる。

 色々な感情が混ぜこぜになり処理落ちしてしまったような、はっきり言って恐ろしい表情だ。

 私は息を飲み右手を後ろに隠した。

「だ、大丈夫だから」

「誰にやられた?」

「し、知らない人」

「………………」

 反応がないのがさらに恐ろしい。

 とにかく昼休みが終わる前にと土井ちゃんに引きずられて保健室に行くことになった。