土井ちゃんが急いで呼びに行った相手が沢里だったのだろう。
当事者を連れ出してくるとはなんとも土井ちゃんらしい。
もしも沢里の登場がもう少し早かったら一体どうなっていたのか。
なぜだかそっちの方が恐ろしい展開になっていたような気がする。
黙ったまま沢里から視線を外して、むしろこれでよかったのだと無理矢理自分に言い聞かせた。
「手すりむいてる。保健室行こうよ、ね?」
「大丈夫」
心配そうな土井ちゃんの手を借りて立ち上がる。その瞬間、ぴりっとした痛みが右手に走った。
あ、やばい。どきりと心臓が跳ねる。
おそるおそる自分の右手を見ると、中指の爪が割れて血がにじんでいた。
「凛夏、爪が……」
最悪だ、指をやってしまうなんて。
