君の隣で歌いたい。



「美奈に聞いたんだけど、なんか沢里くんに気に入られてるくせに邪険に扱ってるって話じゃん。調子のってるよね」

「別にそんなんじゃ……」

 美奈。同じクラスの派手な顔が脳裏に浮かぶ。

 沢里にお近づきになりたいと言っていたが、要は私を快く思っていなかったらしい。

「そうじゃないならさ、今日うちら放課後遊びに行くんだけど、沢里くん誘ってきてよ」

「あの、本当に仲良くないし気に入られてもいないんで」

「はあ? 嘘つくなよ!」

 名前も知らない先輩の一人にドンと強く肩を押される。その弾みで握っていた片方のイヤホンを落としてしまった。

 土井ちゃんがバイトして買った大切なイヤホン。

「あっ」

「ホント生意気」

 そして、トドメと言わんばかりに別の先輩がそのイヤホンを蹴っ飛ばそうとした。

「やめて!」

 ガツン、と嫌な音が鳴った。イヤホンを庇って蹴られた私の手は、しだいに熱を持ってくる。

「痛っ……」

「ちょっと! 勝手に手出したのはそっちだからね」

 今日の私は絶不調だ。泣きすぎて頭が痛いし、寝不足で頭もぼんやりする。

 それに加えて謎の言いがかりをつけられて手を蹴っ飛ばされ、もう立ち上がる気力は残っていなかった。