うちの高校にはピアノの練習部屋がある。以前に音楽科があった名残らしく、生徒は誰でも使うことができる。

 本当にピアノを弾くためだけの部屋で、ピアノ一台と人が二人入れるかのスペースしかないが、私にはそれで十分だ。

「今日駅ナカのパンケーキ食べて帰らない?」

「あっごめん、今日はちょっとピアノ弾いてから帰ろうと思ってて。また今度」

「そっか。凛夏、ピアノ好きだもんね。りょーかい!」

「ピアノ!?」

 そんな土井ちゃんとの会話にピクリと耳を立てたのはゴールデンレトリバーのゾンビ。

 急にキラキラとした目で見下ろされ、私はたまらず反り返ってしまう。

「見学させてください!」

「い、いや練習室狭いから無理」

「大人しくしてます! 静かにしてます! いい子にしてます!」

「ええ……」