応用問題に取りかかっていると透流さんがふと口を開いた。
「不思議な解き方をするね」
「え? そうですか」
「確かにベクトルを使っても解けるけれど、これは微積分の範囲の問題だから好ましくないね」
「答えが合っていても……ですか?」
「そう、過程の点がつかなくなってしまうよ」
答えが正しくても、それに至る過程が試験の範囲外であるから減点になる。ということらしい。
私はペンを持つ手を止める。
ベクトルを使ったのは私がそうしたかったからだ。それで導き出した答えは合っている。けれどそれではだめだという。
つまり私は答えを間違えたのではなく、答えに至る方法を間違えたということだ。
「透流さんは答えと過程のどちらが重要だと思いますか」
「それは数学の話かい?」
「いえ……それに限らず」
透流さんは眼鏡のフレームに触れながら少し考える素振りをし、隣に座る私に向き直る。