私は確かに【linK】が好きだったけれど、五十嵐凛夏といるのはなぜだか先輩たちとつるんでいた時よりも気持ちが楽だ。

 だから仕方がなく、五十嵐凛夏に似合いそうな淡い色のリップを探してやる。

 私には絶対に似合わない色だ。

「ねえこの色美奈に似合いそう。私には絶対に似合わないけど」

 そう言って五十嵐凛夏が差し出してきたのは真紅のティントルージュ。

 あんたに似合わなくて当然だ。これは私の色。

 五十嵐凛夏が絶対になれないと言い張る私という存在が、なにもなかった私のアイデンティティになりつつある。

 真逆だから救われる? 

 そんな馬鹿げた話はあってたまるか。

 私は五十嵐凛夏が大嫌いだったのだから。

 お互いにそう思っていればいい、それだけの関係が心地いい。

 ある意味両想いだと考えてやめた。

 チェリーピンクのグロスを棚から引き抜いて光に透かす。

 なにもない私が五十嵐凛夏のまとう色を変えられるとしたらこれしかない。

 いつか【linK】の唇に私の手でこの色を乗せてやる。

 突然惚れさせられた逆襲だ。

 それまでは仕方がないから大人しくしておこう。