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 放課後、茜日の射すレンガ通りを歩く。私の通う高校は過去に貿易で栄えた港町の片隅にある。登下校中の風景には古い洋風の街灯やモザイクタイルの壁が自然と入ってくる。

 そんな都会でもなく田舎でもない雰囲気が気に入っていた。

 わずかな潮の香りを吸い込んで、ぼんやりと一人帰り路を行くこの時間は多くのフレーズが浮かんでくる時間でもある。

 トン、トン、トン、

 指で拍をとり、ハミングをしながら音を乗せる。この調子だと新曲は来週にでも仕上がりそうだ。

 ――邪魔が入らなければの話だけれど。

 透流さんに勉強を教わる時間が惜しい。その時間があれば曲作りが進む。

 しかし学生の本分と言える学業を疎かにすると音楽そのものを取り上げられてしまうかもしれない。

「好きなことをさせてほしい」

 その一言があの家族の前ではどうしても言えなかった。柾輝くんのように自由になりたいと言ったら、母はどんな顔をするだろうか。実の父のように音楽の道に進みたいと言ったら、義父はどう思うだろうか。

 ふとポケットの中でスマホが震えていることに気付く。着信の相手は柾輝くんだ。私は急いで画面をタップする。

「柾輝くんーーーどうしようーーー!!」

「あーうるせー!」

 やっと相談相手と話ができる。私は文字どおり柾輝くんに泣きついた。