「ほら、柾輝くん」

 呆然として花束を受け取らない柾輝くんの脇腹を肘でつつくと、柾輝くんは複雑な表情を浮かべた。

「どんな心境の変化だよ。あんなに音楽活動に反対してたくせに」

「頭ごなしに反対して、悪かったわ。お父さんと同じようになってほしくなかった……夢を追って、無理をして体を壊して。でも音楽の才能はお父さんに似なくてよかった。MVPおめでとう」

「なんだよそれ……」

 柾輝くんは納得のいかない様子ながらも、母の手から花束を受け取った。

 母が柾輝くんに歩み寄った。

 とても時間のかかる一歩だった。

 これでもう柾輝くんとこっそり会わなくていい、堂々と兄妹として同じ時間を過ごしていいのだ!

 私は喜びのあまり柾輝くんに飛びついた。

 柾輝くんはまだ信じられないという顔をして、しばらくして「重い!」といつものように文句を言い始めた。

「盆正月くらい顔見せに来なさい」

「めんどくせー」

 壊れていたものがゆっくりと元に戻っていく。

 望んだ形にはまだ遠いけれど、確実に近づきつつある。

 完全に失われる前に音楽が繋ぎとめてくれた。

 私はその事実を噛みしめる。

 父が生きていた頃、母と柾輝くんは喧嘩しながらも仲がよかった。

 似た者同士だねと、父が呟いた意味が今なら分かる。