「二人とも、あっち」
義父に示される方向を見ると、ゆっくりとこちらに向かってくる母の姿があった。
私はごくりと息を飲む。柾輝くんが逃げないように服の裾を掴むと「ちっ」と舌打ちが聞こえてきた。
また一人だけで逃げようなんてそうはいかない。
「お母さん、今日は来てくれてありがとう」
その表情は読めない。
ただ最後まで私たちの歌を聴いてくれていたことは素直に嬉しい。
「柾輝、凛夏」
神妙に名を呼ばれ、ようやく柾輝くんも話を聞く姿勢を見せる。
不意に母は後ろ手に持っていたものを私たちに差し出した。
それは二つの花束だった。
「あ」
「まさか二人とも同じライブに出るなんて。昨日お父さんに聞いて驚いたわ。柾輝、凛夏。二人ともおめでとう」
「お、お母さん……!」
花束を受け取って、私はそのまま母の手を取った。
その手の暖かさと、音楽を受け入れてもらえた嬉しさにどうしようもなく嬉しくなる。
