確かに演奏しているのに、時間が止まってしまったかのような気分になる。

 本番の最中なのに、まるで練習室で二人きりで歌っているよう。

 沢里と二人、ただ声を合わせる。沢里の視線と呼吸を感じながら歌う。

 脳裏に浮かぶのは今日までの思い出たち。

 そのほとんどが沢里に埋めつくされている。

 沢里の声をずっと聴いていたい。

『一緒に歌いたい』

『私と一緒に歌ってほしい』

 このまま時間が止まればいいのに。





「がんばれ、凛夏!」




 どこかから、懐かしい父の声が聞こえた気がした。