前は好きにしろと言ったじゃないか。
私はそのそっけなさに驚きを通り越して怒りを覚え、拳を震わせて母に突撃しようとしたが、あえなく義父に止められてしまった。
「大丈夫、ライブには必ず連れて行くから。そっとしておこう」
そう優しく諭されては私も引き下がるしかなかった。
父の弾くギターを聞きながら幸せそうに笑っていた母は、どうしたら戻ってきてくれるのだろう。
私は知っている。
母が部屋で時々父の歌を聴いていることを。
売れない歌手だった父が出したCDを、繰り返し。
母は音楽が嫌いではないはずだ。
柾輝くんと大喧嘩をして、後に引けなくなってしまっただけに違いない。
過去の母と柾輝くんの争いを知っているからこそ、母には私たちが音楽を愛していることを認めてほしい。
ライブで歌っている姿を見れば少しは分かってくれるのだろうか。
