「もしもーし、どした?」
「土井ちゃん! あの、今から会えないかな!?」
「今から? さっき家着いちゃったけど……」
「分かった! 今から土井ちゃんちの近くまで行くね!」
「ん? ちょっと凛夏?」
そのまま通話を終えて、雨粒がびしびしと顔に当たるのも気にせず駅へと駆ける。
土井ちゃんの家は駅前からバスに乗って十五分ほどの住宅街だ。
土井ちゃんに正体を明かせずにもやもやしているのが歌に表れている。
そのわだかまりはずっと胸の中にあった。
これまでは一人で歌っていたから誤魔化せたけれど、沢里と歌うのに不安要素を抱えていられない。
例え怒られても嫌われても、黙っているよりはマシだ。
大勢の前で歌う覚悟をしたはずなのに、土井ちゃんの反応を思うと全身に緊張が走る。
