沢里にだって不安はあるだろう、そして辛い思いをしてきただろう。

 なのに自分のことは後回しにする。

 そういう人間なのだ。もうとっくに理解している。

 そんな沢里のために、私も一歩踏み出したい。

「私も同じだよ、沢里。沢里の前の学校の人たちに、沢里の歌を聞いてほしい。親の名前なんかなくてもすごいんだって、分からせてやりたい。だから私、私は……」

 勢いでそこまで言って息を吸う。

 これからは呼吸すら沢里に頼ることになる。

 それでも私はやり遂げたいと思った。思わされてしまった。

 沢里の強い力に引っ張られて、私という存在がどんどん形を変えていく。

「私、沢里のために歌うよ。沢里が私のために歌ってくれるように」