「ブレスの位置が狭まってる」
sawaさんの言葉に私はガクリとうなだれる。
沢里と一緒にさくらさくらを歌った結果、一番が終わるころに力尽きた。
声を出そうとすればするほど、息のみが勝手に吐き出される。気持ちを強く持っても体が付いてこない。
持って来たペットボトルの水を一口飲み、喉の動きを確かめる。
なにが悪いのか自分では分からない。
「一人で歌っているときはのびのびとしていてとてもよかった。音程も正確だし、息も続く。でも二人で歌うと途端ににブレスがおかしくなるんだ」
ブレスの位置。
二人で歌っている時は迫りくる妄想を払いのけるのに必死で考えられない。
楽譜に息を吸う位置を書き込んでも、息が続かなくて結局そこまで我慢できずに吸ってしまう。
「……ふむ。じゃ、春。ピアノ」
なにかを考える素振りを見せた後、sawaさんはキーボードを沢里に託し私の前に立った。
