時間が惜しいと言うようにsawaさんはそこら辺の紙束を私にまとめて手渡す。

 見ると誰もが知っているような童謡の楽譜だった。私は頷き急いでマイクの前に立つ。

「軽く発声から」

「はい!」

 sawaさんのキーボードに合わせて声を出す。

 オクターブ、スタッカート、そしてブレス。

 「い」の口でリズムに合わせて息だけを吐く。

 適度な負荷がかかり肺の準備運動にもなる。

 sawaさんは私を注意深く見てから、うんと頷く。

「じゃあ次『さくらさくら』」

 sawaさんは次に童謡の『さくらさくら』を歌うように指示する。

 さすがはプロのミュージシャン、そのスピーディーさに付いていくので精一杯だ。

 沢里は幼い頃からこんな指導を受けて育ったのかと思うと尊敬すら抱く。

 キーボードに合わせ、私は楽譜どおりに主旋律を歌った。

 さくらさくらはゆったりとした歌いやすい曲だが、sawaさんはなぜかよりゆっくりとキーボードを弾いているように思った。