『リンカが他の人と楽しく歌っている姿を見たくない』
そう言った沢里の気持ちが少し分かった気がした。
「親父もうすぐ来るって」
「は、はい」
沢里の言葉に私はピンと背筋を伸ばす。
緊張がぶり返してくるのを感じ、私は縋るように沢里を見る。
「ね、ねえ結局沢里のお父さんって――」
誰なの? と問おうとしたその時、重い扉が開き一人の人物がスタジオに足を踏み入れた。
白髪混じりの髪を後ろに撫でつけ、頭にサングラスを引っかけたド派手なアロハシャツ姿の男性が、ビシッと二本指を顔の横に構えて沢里に歩み寄る。
「ういーっす」
「親父! ちゃんとした格好しろって言っただろ!!」
「おいーっす」
「聞けよ!!」
奇抜なデザインのシャツに映えるダンディで彫りの深い顔立ち。沢里によく似たすらっとしたスタイル。
私はそんな男性を見て、思わず口元に手をやった。
