スタジオのソファに座り、沢里が誰かに電話をする姿を見つめる。

 憎たらしいほどにスタイルがいい。カジュアルな服装なのにやたらと目を惹くのはそのせいだ。

 背が高いからスポーツも得意そうだが、本人曰く「中の中」なのだそう。

 単なる推測ではあるが、指を痛める危険があるからあまり好まないのかもしれない。

 私の割れた爪を見た時の反応が過剰だったのも、沢里の中では耐え難い出来事だったからではないだろうか。

 そうだとしたら沢里の世界は音楽を中心に回っている。
 
 親の英才教育と立派な自家スタジオ、柔らかな声に器用な指。

 気付くと私はごくりと喉を鳴らしていた。うかうかしていられない。

 きっと沢里は私なんてあっという間に越えて行ってしまう。

 今はまだ世の中が沢里を見つけていないだけなのだ。